アーリーヴィクトリアン ブラスインレイ クロッチマホガニー ディードボックス

今から約2世紀ほど前、イギリス19世紀前半、ヴィクトリア女王の時代に製作された、
ジュエリーボックス/アクセサリーケース(ディードボックス)です。
小ぶりなサイズにもかかわらずこの存在感、この重厚感・・。
産業革命から2度の世界大戦を経て、ITが世界史を変えようとしている現代。
約200年もの間、そんな歴史の大波の中で揺られてきた、時代の積み重ねを感じさせる風格です。
でも、不自然なほど「自然」に存在していることに、ちょっとした違和感を覚えます。
だって、2世紀前の木製品が、何事もなかったかのように普通に使えるというのは、
よく考えてみればあり得ないこと。
確かに、当時のアクセサリーケースといえば、文字通り”ジュエリーボックス”(宝石箱)でしょうから、
間違いなく大切に扱われてきたのでしょう、状態が良いのも合点がいきます。
それに宝石箱を持てる身分といえば貴族階級でしょうから、お抱えの家具職人くらいはいたに違いありません。
まめにお手入れはされていた可能性もあるでしょう。
しかしそれ以前に、ケース自体の素材品質が高くなければ、100年以上も状態を維持することはかないません。
素材は、主材としてはマホガニー材。
当時のスパニッシュ・マホガニーのリボン杢で全面化粧張りされています。
近現代の最高級材で知られるホンジュラス産マホガニーとは印象が違いますが、
当時はホンジュラス産マホガニーがマホガニーの一般材で、高級家具用のマホガニーといえば、
ジャマイカンウッドやキューバンマホガニーといった旧スペイン植民地からの希少な輸入材でした。
それらの人気の高かったマホガニー材は、総称してスパニッシュ・マホガニーと呼ばれていました。
ベース材は内装木地の木理からするとマホガニーの無垢ベースと思われます。
天板と底板にだけはウォルナット系と思われる堅木が使われています。
構造的な歪み防止対策でしょうか。
いずれもアンティークの時代ならではの銘木級の材料が使用され、
今では考えられないほどの贅沢仕様となっています。
製作技術も非常に高く、化粧張りでさえも、張られた化粧張りが浮いてくる「浮き」などは
150年経った今でもほとんど見られません。
また後述いたしますが、非常に複雑なからくり構造を持ちながら、上蓋と下箱との突合せ誤差は、何と小数点以下!!
1ミリ以下です。
要するにほとんどずれることなく、今なお、ぴったりと蓋が閉まる、というのは驚異的な精度です。
奇跡的、と言い換えても良いかもしれません。
この一切の狂いを見せないフォルムの精度や、剥離一つ見せない化粧張りの品質を見るにつけ、
素材や扱いの良さだけで、カタチあるものがあるがままの姿で残っているとは、
ちょっとにわかには信じられないですね。
命あるものには必ず寿命がありますし、カタチあるものはいつかは失われます。
それでは、その「いつか」って、この箱にとってはいつ?
もしかすると、長い歴史の中で、何回もレストアが入っているのかもしれませんが、
きっとこのようなアンティークには、保存に良い条件が偶然いくつも重なり、
ある意味では、本当に「幸運」に生き残ってきた、というのが真相なのではないでしょうか。
・・というのが、こちらのアンティークの率直な感想。
私感はさておいても、200年前の時代を反映する「宝石箱」を、
ダイレクトに知ることのできる幸運を、こうして享受できていることは、紛れもない事実です。
リボン杢独特の、光の具合で順目と逆目が織りなす縞杢は、ナチュラル・アートのような見事な描写。
こうした「炎が立ち上がるような」木理は、”クロッチ・マホガニー” などとも呼ばれています。
蓋を開けると、すっきりと清潔感のあるピュアマテリアルの内壁。
内部スペースは、意味ありげな収納区画。
立体的に3分割されています。
ふたを開けてすぐ手前のスペースは、出し入れしやすいフリーなエリア、
その後ろ側は底深の薄型スペース。
何か、高さ10cm程度の薄型のものを、差しておくにはちょうど良さそう。
例えば、ブローチやブレスレットなどの大き目のアクセサリーなどでも良いでしょうし、
写真などのカード類でも良いでしょう。
下部には引き出しが設けられていますが、この引出しは蓋が閉まっていると引き出すことはできません。
天蓋の開閉と連動して引き出すことのできる「隠し引き出し」的なスペースです。
引出し内部は底浅のトレー状。
仕切りで4つのスペースに分割できますので、ピアスやイアリング、ネックレス、指輪など、
雑多な小物類の収納に適しています。
初代のオーナー様の時代には、様々なアクセサリーが
あふれんばかりに収められていた状況が目に浮かぶようです。
もちろんこちらのボックスはキーロックの付いたシークレットボックス。
盗られてはならないものが満載だった、ということでしょう。
それにしても、その状態の良さにも驚きますが、これほどの機能家具が、
2世紀経過した今なお現役で、普通に機能し続けることに、何とも、言葉がありません。
製作されたのは、家具の量産化が始まるビクトリアン初期の時代。
ハンドメイド家具の技術水準が英国の歴史の中でもピークを迎えていた時代です。
近代家具の工業生産が始まる以前の、数少ない木製品の一つが、
こうしてほぼオリジナルの状態で残っているわけですから、
これは、本当に「幸運」というよりも「奇跡」に近いことですね。
紛れもなく“スーパープレミアム・アンティーク”の一つと言ってよいでしょう。
素材・品質だけでなく歴史的背景から考慮しても、間違いなく価値ある逸品。
アンティーク上級者の方には、ぜひお見逃しなきよう・・。
(Buyer/YM)
価格(税込):
55,000
円
参考市場価格:
52,500
円
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LOCKON CO.,LTD.