スターリングシルバー ヴィクトリアンシュガーキャディ


今から約120年前の1894年、イギリス・ロンドンで製作されたシュガーキャディです。
純度92.5%のスターリングシルバー(純銀)で製作された、当時の高価なお品です。

おお・・このただならぬオーラ、
お感じいただけますか?

お砂糖入れ、といってしまえばそれまでですが、ヴィクトリアンの頃の「茶器」といえば
コモディティ(日用品)ではなく、ほとんどジュエリー(宝飾品)に近いものでしたから、当然といえば当然。

古くは日本の戦国時代でも、武将たちにとって、領土を与えられるよりも有名な茶器を与えられた方が名誉、
と思われていた時代もあったくらいですから。(関係ない話?)

とにかく、純銀の何とも表現しがたい色艶は、まさに宝飾品。
今でもそのあでやかさは失われていません。

もちろん、背面と蓋の内面の2か所には、英国認証機関公認の純銀を証明するマーク、
“パサント”マークのライオンが確認できます。

右端には“デイトレター”という刻印があって、盾型の中に大文字の”T”の文字が。
調べてみると、おそらくその書体は1894年製とのこと。

ゆうに100年を超えているわけですが、この状態の良さはさすがスターリングシルバー、といったところでしょうか。

そして、ライオンマークの右隣りには産地の分かるアセイマークという刻印があり、
そこには「豹の頭」のマークが確認できます。

ホールマークガイドによれば、それは”ロンドン”製ということです。
左端のH・Sは、製作したメーカーを指しています。

スプーンは、コールポットなどでもおなじみの、スコップ型のショベルシェイプ。
こちらはスターリングシルバーではなく、シルバープレート(銀メッキ)のようです。

・・なんだ、メッキか? なんて思わないでくださいね。
ある意味ではただの銀食器よりも価値のあるお品なのですから。

スプーンの柄の裏に “J.G.GRAVES” という刻印が見えますね。
これはメーカー名ですが、その下の “B P N S” というマークにご注目ください。

これは “British Plated Nickel Silver” の頭文字をとったもの。
イギリスで古くからおこなわれていた「熱メッキ」によるシルバープレートであることを示しています。

アンティークのシルバープレート製品を、インターネットなどでちょっとチェックしてみてください。
“E P N S” と刻印されているものが多いことに気づかれると思います。

これは “Electro-Plated Nickel Silver” の略。
つまり、「電気メッキ」でつくられたシルバープレートであることを示しているのです。

現代のメッキもそうですが、電気メッキは1mm以下の極めて薄い銀の層を蒸着させることが可能な技術で、
時代が進めば進むほど、その技術は進み、メッキはより薄く、つまり、銀の量はより少なくて済むようになりました。

これはメーカーにとっては、とても好都合な技術なのですが、利用者側にとってはあまり喜ばしくない技術。
銀の量が少ないので長い歳月、磨き続けているとメッキがはげてしまいますからね。

それに対して熱メッキは銀の層の厚みがあるので、そうやすやすと下地が出たりはしません。
手間もコストもかかっているので、当時の熱メッキメーカーたちは、安価な電気メッキ品と区別するために、
イギリスの古来からの産地、“シェフィールド” のメーカーが中心になって
このような刻印を施す習慣をつくった、といわれています。

しかし、その時代はまだまだ「庶民」よりも「資本家」が圧倒的に強かった時代。

電気メッキの特許を単独で取得した勝ち組、 “エルキントン”社に、
多くのシェフィールドの熱メッキメーカーたちは買収され、19世紀中盤以降、
ほとんどシルバープレートは電気メッキ製品EPNSに変わってしまったのです。

逆に言うと、アンティーク業界的には、熱メッキBPNSということは、
新しくても19世紀半ば以前のもの、と推測することができます。

実はデニムでも “B P N S” のシルバープレート製品を前から探していたんですよね。
それがこんなところで出会うとは・・。

ちなみに “J.G.GRAVES” というメーカーは、筆者的には知りませんでしたが、
古い時計会社で、現地では有名な企業だったそうです。
また会社にもまして、経営者のジョンジョージグレイブス(1866-1945)という人物は
ひとかどの英国紳士だったようです。

彼はかなり事業に成功したと見えて、かなりの個人資産を蓄えていたようですが、
彼はその個人資産を惜しみなく地元の公益事業に投資したり、
有益な財団を創設するファンドに支出していた、ということです。

つまり、その地の「名士」だったわけですね。
後には市長まで勤めていたそうです。

ところで、市長ってどこの? 地元って?

えーと、・・え? シェフィールド!?
何と、先の「銀メッキの話」とつながっていたのです!

おそらく彼、あるいはその親族はシェフィールドの伝統工芸、「熱メッキ」のメーカーだったのでしょう。
しかし、エルキントンの電気メッキのトレンドにより構造不況に陥り、
彼の会社は時計メーカーに転身したのではないかと思われます。
そして・・結果、彼は成功したのです!

シェフィールドの熱メッキメーカーは、大半は廃業か合併されるかの消えゆく道を選んだ、とされていましたが、
なんと、このように独自で生き残り、成功していた会社もあったのです!

この情報を入手したイギリスのサイトでは、彼 “ジョンジョージグレイブス” を下記のように紹介していました。

“J.G.GRAVES was a successful English watchmaker, entrepreneur and public benefactor.”
→ジョンジョージグレイブスは成功した英国の時計メーカー(の経営者)であり、起業家であり、(偉大な)地元の後援者でした。

何と、このスプーンはその時計メーカーの前身、
構造不況に陥っていた熱メッキメーカー時代の産物だった、というわけです。
う〜ん、筆者、ちょっと感動。

何だか、銀製品のシュガーキャディのご紹介ではなくて、付属品のスプーンの紹介となってしまったようですが、
1つはっきりした事実は、このシュガーキャディとスプーンはつくられた時代が違う、ということですね。

つまり、この組み合わせは後年、以前の所有者がアンティーク品を組み合わせて作ったセット、
ということが想像できます。

まあ、もともと、このシュガーキャディ自体、多くのティーセットのアイテムの中の1アイテムだったと思われます。
ですから、こちらだけが単独で市場に出回ってしまった「泣き分かれ品」なわけですから、
違うメーカーのスプーンとの組み合わせをいまさら述べてもあまり意味はないことですが、
しかしながらアンティーク品として、その素性がはっきりしていることは、
評価のポイントとして高い、といえますよね。

ただ単にその古い姿を今に残しているだけではなく、このような伝統技術の興亡や、
企業の歴史なども今に伝えているアンティークたち。

ホントに、過去から現代への素晴らしい贈り物だと思います・・。

(Buyer/YM)



価格(税込): 48,300 円
参考市場価格: 48,300 円
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