フィッシェルFischel ベントウッドビストロチェア

非常に興味深いベントウッドチェアがフランス北部、トロワーの街から入荷しました。
フランス人のベントウッドコレクターより入手しました、
フィッシェル社製ではないかと思われる珍しいベントウッドチェアです。
一般のアンティークファンの方でしたら、見過ごしてしまうベントウッドチェアかもしれません。
・・でも、デニムは見逃しませんでした。
非常に珍しいベントウッドチェアになります。
少しクラシックトーネットを知ってらっしゃる方でしたら、
「このチェア、No5? それともNo12?」
と疑問に思われることでしょう。
※下記エキストラフォトにNo5とNo12のお写真を掲載しました。
いえ、いずれも違います。
背あての上部はトーネットのNo5と同じ形状ですが、下部はNo12の形状。
つまり、両者の特徴を備えたチェアなのです。
これって・・?
どちらかといえば、デザインはNo28に近いですが、やはり背あての形状は違っています。
メーカーを特定する座裏の刻印については、痕跡は残っているものの、
消えてしまっているのか、意識的に削られてしまったのか、判読はできません。
紙ラベルもやはり痕跡っぽいものはありますが、同様です。
デニムの出した結論としましては・・おそらく当時のトーネット社のライバル企業、
フィッシェルFischel社の商品ではないかと推測しております。
トーネット社製のものとすれば、プロトタイプと思われます。
トーネットの定番商品でないと思うのは、「1900年ごろ」というこのチェアの製作年情報が正しいとすれば、
単純にその当時のトーネット社のカタログには掲載されていなかったからです。
ただ、その頃には大量のプロトタイプが作られていたという情報もあります。
トーネット社は競合他社との差別化のため、そして曲げ木の第一人者としてのプレゼンスを築くため、
当時、商品のラインアップをものすごい勢いで増やしていましたからです。
とすれば、こちらがその中の一つである可能性はあります。
デザイン的にも既存のモデルのそれに近いですし。
でも、トーネットのプロトタイプに特定できない決定的な問題があります。
それは座面のサイズが直径38cmであること。
どういうことかというと、トーネット社がどんどん商品の種類を増やすことができたのは、
背もたれのデザインのみ差し替えることで新しい商品を素早く作ることができたからです。
つまり、背もたれ以外の座や脚などのパーツについては、すべてのモデルで共有化していたのです。
そのトーネット社の各モデルの共有座面は、直径42cmと37cmの2タイプしかありませんでした。
ということは、38cmのイレギュラーな円形座面を使用するのは、トーネット社では合理的ではありません。
もちろんサイズも含めたプロトタイプという可能性もありますが、普通に考えれば、まれなことでしょう。
トーネット社でないとすれば、冒頭のフィッシェル社か、あるいは後にトーネットと合併するJJコーン・ムンドス社。
このクラスのベントウッドチェアを商品化できるレベルにあったのは、この2社くらいですから。
それ以外とすれば、オーストリアのウィーンで、手作りで曲げ木家具を作っていた、
小さいけれども高度な技術を持ったハンドメイドマニュファクチャーたち。
それ以外にも、まだデニムでも知らないメーカーの可能性はありますが、
座枠だけ見ると、量産系のつくりに近いように見えますので、
無名の小さな家具工房が作ったものではなさそう、と思いました。
JJコーン社についても、かなり可能性が高いと思いましたが、
やはり、そのころのカタログには掲載されていなかったので、
JJコーン社だったとしても、量産品ではなかったと思われます。
個人的には、有名なJJコーン製”ムゼアムMuseumチェア”にとてもディテールが近いので、
もしかして、ムゼアムチェアのデザイナー、アドルフ・ロースAdolf Loosが企画したプロト? と思いましたが、
そんな「ダイヤの原石」がそうたやすく手に入るわけは・・。
結果として、消去法でフィッシェル社製では?、となったわけです。
でも、座枠のジョイントが”スカーフジョイント”を、この当時採用していたのは、
フィッシェル社でしたし、何よりも、フィッシェルらしいデザイン性の高さ。
こちらのチェアの前脚、そして後ろ脚を見てください。
・・あたかも、ふくらはぎのようにふっくらとした中央あたりから、先細りに削り込まれながら大きく曲げられた脚先。
あたかも、ウィーンのハンドメイド工房、ジョセフネイガーJoseph Neygerモデルのようです。
デザイン性を最優先していた、フィッシェル社らしい特徴です。
しかも、後ろ脚に至っては何と! 内側に曲げられています!!
・・アドルフ・ロースのムゼアムチェア以外では初めて見るタイプのベントウッドチェアでした。
そもそも、フレームの太さが均一ではなく、楕円や細身にされたりしているモデルは、
19世紀後半のものならありましたが、20世紀初期になるとトーネットなど、大手メーカーでは
ほぼ、商品ラインアップから消えてしまっていたはず。
この点からも、量産化に腐心していたトーネット社ではなく、トーネットに追いつけ追い越せと、
生産の合理性よりも、商品のレベルアップを追及していた、
トーネットに近いレベルのコンペティターが製作した、と考えるのが自然です。
つまりそれこそが、フィッシェル社でした。
・・残念ながら、フィッシェル社のこのころのカタログは入手できておりませんので、証明はできませんが、
フィッシェル社のカタログ自体は、1940年代、第二次大戦前後のころまでのものが存在していますので、
いつか、そのカタログが入手できた時、このチェアの真実は明らかになることでしょう。
・・すみません。
つい興奮して、長文になってしまいました。
しかし、こちらのチェアがフィッシェル社のものとすれば、トーネットを目指していた「挑戦者フィッシェル」は、
少なくともこのチェアを生み出したとき、既にトーネット社を超えていたように思います。
いや、このチェアに限って言えば、あきらかに超えていました。
あたかも、プロトタイプかと見紛うほどの高度化された製作・技術力・・。
間違いなく、トーネット社を超えている商品クオリティです。
・・それにしても、いかに当時の家具業界では熱い戦いが繰り広げられていたか。
その一端に触れた気がします。
曲げ木家具を生み出し、「量産」という生産革命をもたらしたトーネット社。
そして、そのトーネット社に戦いを挑んだコンペティター、フィッシェル、JJコーン、ムンドス、ジョセフネイガー・・。
彼らは互いに切磋琢磨しあい、世界の産業界全体のレベルを高める功績を残してくれました。
1世紀前の世紀末を戦った企業家たちの系譜、
まさにその「歴史の一里塚」がこちらのチェアなのです。
その大いなる遺産を、ぜひ・・。
(Buyer/SD)
価格(税込):
77,000
円
参考市場価格:
73,500
円
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LOCKON CO.,LTD.