トーネットTHONET ユーゲント・シュティール ハープバック ベントウッドチェア


大変貴重なアンティークトーネットThonet社製のベントウッドチェアが入荷しました。
おそらく20世紀初めごろに製作されたフィッシェルFischel社のベントウッドホールチェアです。

「トーネット社製の・・フィッシェル社のベントウッドチェア?」
「どういうこと?」

・・と、疑問に思われますよね。
要するにこちらは、現代でいうところのOEM(original equipment manufacturer)生産品、ではないかという仮説です。

OEMとは、他社ブランドの製品を製造すること、またはその企業のこと。

つまりこちらは、トーネットが製作したフィッシェル社ブランドのモデルか、
あるいはトーネット社ブランドでフィッシェル社が製作したモデルか、
どちらかであろうという推測、ということです。

なぜそんな結論に至ったのか?

もちろん、こちらのモデルにはメーカーの刻印や紙ラベルがついていないので、
メーカーの確証はありません。
しかし、当時の主要なベントウッドメーカーは、接合部などを見るとある程度、
製造メーカーを特定できるような構造上の特徴があります。

その点から見ると、こちらの製造メーカーは確実にトーネット社製と思われます。

いえ、正確にはこれも推測なのですが、それには当時の史実という裏付けがあります。

20世紀の初めごろ、つまり第一次世界大戦から第二次世界大戦にいたる、
1910年〜1940年ごろという時代は、世界的に物資が不足していた時代でした。

そうした状況の中、各分野の同業者たちは、お互いに原料・部品から工場ラインまで融通し合い、
助け合いながらなんとか自社の生産を全うしていたようです。

代表的なのは時計メーカー。
協力し合っているうちに、合併したり、買収されたりと、自然淘汰が進み、結果、業界再編が進んでいきました。

そうした経済状況からみて、ベントウッドメーカーも当時、同じような状況にあったことは容易に想像されます。

事実、1910年代には有力なトーネットのコンペティターだったムンド社に、
同じく競合企業のJJコーン社が買収されていますし、1920年代にはそのコーン・ムンドス社とトーネット社が合併しています。

このような状況を見れば、そうした業界再編の前夜には、OEM生産のような相互融通が行われていたのは間違いないことでしょう。

とすれば、ムンドス社とJJコーン社が接近していた時代には、もう一方の雄、
トーネット社とフィッシェル社が関係を持っていたとしても、何ら不思議はありません。

ただ、こうした事実ははっきりと文献で裏付けは取れてはいませんが、
こちらの有名なエンジェルバックチェアを見れば、関係があったことはまず間違いないように思います。

トーネットのエンジェルバックチェアと寸分も違わない構造・デザインでありながら、
メーカーの刻印やラベルはフィッシェル社製。
当初、こちらのベントウッドチェアは非常に不可解に思われましたが、
当時の物資が不足していた状況を考えれば、すべては腑に落ちました。

フィッシェル社でも、もともと”エンジェルバックチェア”を商品としてもっていましたが、
JJコーン社のエンジェルバックチェアよりも、トーネット社に近いデザインでした。
そこで、資材不足からトーネット社のOEMで商品供給を受け、当時人気のあった
エンジェルバックチェアの販売を継続したのではないか、と考えればとても合点がいきます。

であれば、このチェアも・・と考え、トーネットメイドのフィッシェルブランドではないか、との結論に至ったわけです。

実は先のエンジェルバックはもともとフィッシェル社メイドで、
トーネットブランドがついていたエンジェルバックチェアもフィッシェル社製だった、
という可能性もなくはないと思いますので、フィッシェルメイドのトーネットブランドだったケースももちろんあり得ますが、
まあ、歴史の流れを考えれば前者、トーネットメイドのフィッシェルブランドだった可能性の方が高いでしょう。

具体的には、座面形状をみると、トーネット社のものと特定できます。
下記エキストラフォトにカタログ抜粋写真を掲載しましたが、このチェアは伝統的なトーネットの座枠構成で、
JJコーンやフィッシェルは、またそれとは違うそれぞれ独自の座枠形状を採用していました。

一方、こちらのチェアの特徴的な、楽器の”ハープ(ライアー)”をモチーフにした家具デザインは、
ヨーロッパで古来から見られたものです。

このハープをチェアの背面デザインに使った”ハープバックチェア”も、
古くからサロンチェアの背をはじめ、サイドテーブルの脚のデザインなどにも使われていて、
もともとヨーロッパの社交界ではなじみの深かったデザインです。

そんな歴史を背景として、19世紀末ごろ、ヨーロッパ中に広まったアールヌーヴォーという「世紀末美術様式」は、
このハーブをモチーフとした優雅な曲線の家具デザインに再び脚光を当てることとなりました。

こうした若い感覚で想像された、アールヌーヴォーデザインは、ドイツでは、
”ユーゲント・シュティールJugendstil(青春様式)”とよばれ、
イギリスの”アーツアンドクラフツ(新芸術)”とよく比較されています。
ともに、アールヌーヴォー期の新しい芸術様式で、どちらも後年のデザイントレンドにも大きな影響をもたらしています。

そしてドイツではバウハウス、ウィーンではセセッション、といったモダンデザインの誕生へとつながっていきました。

そんなユーゲント・シュティールのハープバックデザイン、
ベントウッドファニチャーの各メーカーの間でも、19世紀末ごろから各社に取り入れられはじめていたようです。

フィッシェル社はもともと、ウィーンの小さな工房の集合体だった会社でした。
(後に発展しチェコスロヴァキアに大規模工場を建設しています)
なので、このような手間のかかるデザインは得意としていたのではないでしょうか。
実際、ウィーンなどでコレクションされているハープバックベントウッドチェアは、
ほとんどハンドメイドに近い工房で作られていたようです。

量産には不向きな構造ですからね。

それにしても美しいチェアデザイン、歴史に残る「名作椅子」の風格です。

ヨーロピアンビーチを使用した無垢材の見事なベントウッド(曲げ木)、
控えめなカブリオールを思わせるS字カーブを持つ前脚、4本の脚を支える補強材としてのリングストレッチャー。

トーネットのスタンダードと言えるデザインに、優雅なハープが背もたれにフューチャーされています。

ハープはケルトやギリシャ神話に登場する女神や英雄が持っていることから、
ヨーロッパでは古くからモチーフとして使用されてきました。

例えばギリシャ神話では、竪琴の名手オルフェウスがハープの音色で猛獣ケルベロスを眠らせたというエピソードがあります。
ハープは不思議な力を持つ神秘的な楽器として描かれることが多く、
「調和」や「均衡」といったキーワードと結び付けられることが多いようです。

つまり、こちらのチェアは、モダンデザインのルーツであり、かつ、
ヨーロッパの人々の生活に根差した、伝統的なデザインでもある、というわけですね。

歴史性は十分。
レトロモダンなデザイン性は現代でも通用するほど。
そして、ベントウッドメーカーたちの栄枯盛衰を今に伝えるミュージアムクラスのアンティーク。

これ以上お伝えすることがあるでしょうか。
デニムがお勧めできない理由もどこにもありません・・。

(Buyer/SD)



価格(税込): 108,000 円
参考市場価格: 105,000 円
申し訳ございませんが、只今品切れ中です。


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